第7回(2010年度)中国建築文化賞について

社団法人日本建築学会中国支部では、中国地方の建築文化の発展に顕著な貢献が認められる活動に対して表彰し、広く地域文化の発展と建築文化に対する意識の高揚を図ることを目的とした「中国建築文化賞表彰制度」を平成16年度に創設した。第7回目となる昨年度は次の2作品について表彰することに決定した。どちらも当該賞の創設主旨を十分満たす優れた作品であり、これらの作品を以下に紹介する。

玖珂クリニック研修所(構造部門 所在地:広島県廿日市市阿品)

受賞者:新田貴太男(新田建築工学研究所)

肉厚耐震壁のコアを中央に配置し地震の水平力を負担させ、三方に翼のように突き出したブロックを床は扁平梁とボイドスラブ、屋根は円筒形ボイドシェルと扁平梁の組み合わせで、梁のないシンメトリーな空間として構成している。柱も扁平断面を駆使しており、設計の意図が明確に伝わってくる。何よりも構造のフォルムが外部、内部ともに自然に表現され嫌味がない気持ちのいい空間を提供できている。内から外を眺望したとき、遮るものが無いこの構造の目的が直ちに理解できる。
中央コアから対岸の厳島に向けて突き出たバルコニーと円筒形シェルの庇は圧巻である。異方性のない軽量なボイドスラブは応募者が研究し開発したドリームボイドであり、その技術を活かしきったこの建築物は応募者が情熱あふれる構造設計者であると同時に建築デザインへの真摯な崇拝者であることが明確に伝わってくる作品となっている。
以上のように、本作品は、応募者が開発した構造技術を活用し,機能性,意匠性にも優れている建築作品と評価でき、中国建築文化賞の「構造部門」の作品として相応しいものと判断する。

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呉の家(住宅部門 所在地:広島県呉市警固屋)

受賞者:中薗哲也(ナフ・アーキテクト&デザイン(有))

音戸の瀬戸近くの呉市警固屋に位置する本建築作品は、旧海軍工廠を源とする造船所や製鉄所に近く、周辺も造船所や鉄工所が多く存在する準工業地帯にある診療所併用の住宅である。内外ともにコンクリート打ち放しの建物は、壁式鉄筋コンクリート造による地下1階地上3階建て、延べ面積519.31㎡であり1階が診療所として地下1階と地上2・3階が住宅として使用されている。
周辺の鉄工所などの雑多な建築群、製鉄所からの鉄粉を含んだ煤塵、騒音など住宅の立地としては恵まれているとは言い難い周辺環境のなかで、外部に対しては開口部の少ないコンクリート打ち放しのシャープな立方体の外観で対応し、適度な緊張感をもたらしている。幾何学的形態でありながらも、壁面は分割されたり、大きくえぐられたりといった巧みな操作により、リズムを持ち軽快さを生み出している。設計者が建築の幾何学的形態とコンクリート打ち放しの材料が周辺に与える量感、圧迫感を十分に意識し、それを取り除くためのエスキースが繰り返された結果のことであろうと推測される。
住宅の内部はその閉鎖性を取り除くために中庭(光庭)と吹き抜けが設けられ、中庭も吹き抜けのトップライトからも上方の光がさすことで垂直方向の空間の広がりを意識させられる。また住宅の内部は2層とも光庭、吹き抜けを中心にぐるりと回遊することのできるプランとなっており、このこともさらに開放感をたかめている要因である。また、建築主の趣味である現代アートが階段室や吹き抜けのブリッジなどの動線部分にプレゼンテーションされており、回遊動線内にピアノ室が置かれるなど生活者のライフスタイルが来訪者にも自然に共有される計画となっている。
外部では診療所併用住宅であることから、敷地の道路に面する部分は患者用の駐車スペースに充てられているが、緑化の工夫によって駐車場がポケットパーク的にデザインされ、地域に提供する試みもされている。
よって、本作品は、周囲の景観に調和した、意匠性、独創性に優れた建築作品であると高く評価でき、中国建築文化賞「住宅部門」の作品としてふさわしいものと判断する。

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撮影:大竹静市郎

新倉敷の家(住宅部門 所在地:岡山県倉敷市新倉敷駅前)

受賞者:山下弘行(一級建築士事務所スタジオアルゴ)

倉敷市の新倉敷駅前の本建築作品は、駅から徒歩約10分の場所に位置している。駅前とは言うものの商業エリアからは若干離れた、閑静な新興地区で、落ち着いた雰囲気の町並を作りつつある場所である。本作品は、平成18年11月に竣工している、地上2階、延べ面積228.97㎡、鉄骨造の建物である。計画にあたり、よく知られた美観地区を有する倉敷の地で生まれ育った施主からの要望、「土間空間を持った和の趣のある家がほしい」を意識した空間構成に努めている。「昔ながらの町屋の土間に通ずる様な家」を心がけている点が注目される。
鉄骨造とはいうものの、内部の床、天井に木材を多用することで、木造住宅の良き雰囲気を造っている。さらには、鉄骨造ならではの大空間を造っていて、そこでの吹抜けを利用して、上下1階2階に連続性を持たせている。また、階段の途中の空間を利用した書斎も絶妙な位置を占め、全ての部屋が繋がっていて、空間的な一体感を産み出している。設計者の意図とした、温かな家族関係に包み込まれた空間としての表現は成功していると言えよう。玄関から廻り込んで土間を設け(設計者いわく、路地が家の中まで繋がっている土間空間)、そこへ設けている薪ストーブも生活をするうえで効果的な役目を果たしている。また、土間と蹴上がりの高さ寸法の加減も心地よい。迎えていただいた施主ご夫婦からも満足感が伝わってきた。
配置的には、敷地南側に駐車場を設け、その横を通っての長めのアプローチが、来訪者に心地よい。北側の鉄道の騒音に対しては緩衝帯としてコンクリート塀を設けている。さらに、光庭、和室、応接室を設け、リビング等の日常空間との緩衝帯ともなっている。
外観的には、南側の低層の駐車場から、北側に向かって、母屋の大屋根が昇っている。内外部とも、大屋根の印象が際立ったデザインになっていて、周辺にやさしい雰囲気を造っている。
よって、本作品は、周囲の景観に調和し、意匠性、独創性に優れている建築作品と評価でき、中国建築文化賞の「住宅部門」の作品として相応しいものと判断する。

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撮影:大竹静市郎

22年度審査員(敬称略・50音順)

遠藤吉生・大久保孝昭・西名大作・平野吉信・松島日出雄・山田 曉

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