一般社団法人日本建築学会中国支部では、中国地方の建築文化の発展に顕著な貢献が認められる活動に対して表彰し、広く地域文化の発展と建築文化に対する意識の高揚を図ることを目的とした「日本建築学会中国支部建築文化賞表彰制度」を平成16年度に創設した。第10回目となる昨年度は次の作品について表彰することに決定した。当該賞の創設主旨を十分満たす優れた作品であり、これらの作品を以下に紹介する。
楠戸家の継続的再生(業績部門) 所在地:岡山県倉敷市東町)
受賞者:楢村 徹((有)楢村徹設計室)
JR倉敷駅から東南の倉敷市にある本建築作品群は、市美観地区の東部に位置し旧街道沿いに面している。江戸期から戦前の多用な建物が建っている地域でもあるが、その中で当楠戸家建築群は呉服屋として明治初期から大商家として発展してきた家である。本作品群は、1997年にスタートし2010年までの10数年にわたり段階的に再生工事が行なわれてきた。その主たるものは10件を数える。さらに今後も続いていくであろう事業でもある。 楢村氏の説明によると、再生は単に保存ではなく、より現代のものとして生まれ変わらせ、歴史を持って引き継げることが必要である。それらが地域文化・景観への貢献となる。と述べている。楢村氏は地域の建築家として30年以上に渡り、古民家の再生・活性化に拘わり続けていて、故郷倉敷がその活動の拠点となっている。その設計の技術手法・デザイン手法には他を寄せ付けない完成度が見られる。当作品群にも長年に渡っての活動の力強さ、エネルギーを強く感じさせてくれる。古民家ならではの魅力を引き出し、そこへ楢村氏の思いが加わり、歴史を経てきた空間を感じさせながら、現代的な空間も味わうことのできるデザインとなっている。それらの継続的な活動により今日の姿があるのであろう。個々の建物はそれぞれ個性を持ちながら統一したコンセプトによって上手くまとまっている。
●25年度審査員(敬称略・50音順)
杉田 洋・古本竜一・松島日出雄・山田 曉・山本春行