社団法人日本建築学会中国支部では、中国地方の建築文化の発展に顕著な貢献が認められる活動に対して表彰し、広く地域文化の発展と建築文化に対する意識の高揚を図ることを目的とした「中国建築文化賞表彰制度」を平成16年度に創設した。第5回目となる昨年度は次の2作品について表彰することに決定した。どちらも当該賞の創設主旨を十分満たす優れた作品であり、これらの作品を以下に紹介する。
●20年度中国建築文化賞の表彰式・受賞者による講演(中国支部総会附帯事業)
日時:平成21年5月21日(木)15:30~
会場:広島県情報プラザ地下多目的ホール
安田女子大学9号館(デザイン部門 所在地:広島市安佐南区)
受賞者:増田裕康(大成建設株式会社)
広島市安佐南区の高台に位置する本建築作品は、学校法人安田学園によるプロジェクトであり、学部増設に伴い一期・二期計画を経て完成されたものである。両期を合わせ、地上7階地下1階、延べ面積26,439 m2となる鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造)の建物で、二期工事は2007年9月に竣工している。
コンセプトとしては、「学ぶ・楽しむ・響き合う」の三つの言葉をキーワードとし、講義室の画一的な集合体という教育施設の既成スタイルから脱した、新たな教育空間の創出を試みている点が特徴である。このコンセプトに基づく計画上の重要な要素の第一が、半円状をかたちづくる大アトリウムである。一期計画では、南側の芝生広場へ開放された広がりのある広場空間を構成するため1/4円のフォルムを採用し、内部に交流空間の中心としての1/4円のアトリウムを置き、その周辺に放射状に講義室が配置している。二期計画では、さらに新たに1/4円のアトリウムを付加して1/2円のアトリウムを完成させ、一期計画とは異なって周辺に講義室、実験室を直交軸に配置している。これらのデザイン要素、構成の異なる2つのアトリウムを組み合わせることにより、単調な吹き抜け空間となることを避け、大空間に変化と動きを与えるとともに、学生にとっての多様な交流空間を創出している。
またこのアトリウム空間の為にデザインあるいは選定されたアートワークや家具は、不思議な躍動感を生み出し、学生にとって刺激的な空間となっている。特筆すべき要素の第二が、円形アトリウムに呼応する回遊性のある平面構成とし、研究・実験・実習の各空間を機能的に配置していることである。これらの各室にはガラスのパーティションを採用し、透明で開放的な教育空間となることを試みており、学生たちの活発な活動を生み出すことに貢献している。第三の要素は、周辺環境と調和する建築を指向していることである。すなわち、最寄駅あるいは付近の幹線道路からも視認性の高い建物であること、キャンパスを訪れた人々への圧迫感の軽減等に配慮し、威圧感が少ない曲面形状を採用するとともに、前面に広がる芝生広場を大きく残した配置計画としている。また建物屋上には既存の芝生広場の継承と断熱を考慮した屋上庭園を配し、近くの山々を借景とした伸びやかな自然との共生空間となっている。
よって、本作品は、学生及び周辺の地域の人々に対して多様な交流空間を提供し、周囲の景観に調和した、意匠性、独創性に優れた建築作品であると高く評価でき、中国建築文化賞「デザイン部門」の作品としてふさわしいものと判断する。
北広島町庁舎(環境部門 所在地:広島県山県郡北広島町)
受賞者:鉄升卓爾(株式会社NSP設計)
北広島町庁舎は、2001年1月に竣工した地上4階、延床面積4930 m2の鉄筋コンクリート造で、免震構造の建物である。本作品の環境デザインで特徴的なのは、北広島町の冬季の外気温度が-5℃程度にまで下がることと、年間を通して比較的日射量に恵まれた地域特性を考慮している点で、北面と南面それぞれに相応しい環境負荷低減のための工夫が成されている。
玄関のある北面は、意匠デザインの面からだけでなく、庁舎を意識した行政の透明性のアピールと空調負荷低減を目的に、ガラス張りのアトリウム空間となっている。これにより、居室の暖房負荷を大幅に軽減し、夏季には、アトリウム上部に設置された温度感知式の機械換気装置により、アトリウム内の暖気を排出するとともに、地下ピットで冷却された外気をアトリウム内に導入して、冷房負荷の軽減を図っている。また、中間期には、この機械換気により南面の窓から外気を居室に誘引して外気冷房を行い、居室内を快適に維持している。さらに、アトリウム空間があることで、居室の暖冷房負荷を大幅に増やすことなく、居室北側の窓面積を大きく取れるため、照明用電力の軽減も図れている。
南面については、窓面を下に向けて傾斜させ、夏は直射日光を遮り、冬は適切な日照を採り入れ、また、窓ガラスには複層ガラスを使用し、暖冷房負荷の軽減を図っている。傾斜窓の庇を兼ねた壁面には、58kWの太陽光発電パネルが、存在感のある面積で設置されている。
2002年3月に、100 kWの太陽光発電パネルが屋上に追加設置されたことにより、この建物の暖冷房に必要な電力の約40%が太陽光発電により賄われている。飛翔する鳥の翼の形をし、未来へ羽ばたくイメージを強調した屋上の太陽光発電パネルと、南面の存在感のある太陽光発電パネルの外観は、極めてインパクトのあるデザインとなっており、地域住民の環境意識の向上に貢献し、町内住宅への太陽光発電の普及率は、県内有数となっている。この他にも、建物の免震基礎スペースを有効利用して水蓄熱空調を採用するなど、電力負荷の平準化にも貢献している。これらの工夫により、購入電力は通常の庁舎の約3分の1に低減されている。
以上のように、本作品は環境負荷低減のための種々の手法を採用し,太陽光発電により庁舎自身の購入電力を大幅に減らして、二酸化炭素排出量の削減に貢献しているばかりでなく、そのデザイン性により地域住民の環境意識の向上に寄与し、町民住宅への太陽光発電パネルの導入促進にも貢献している点は高く評価される。よって,中国建築文化賞「環境部門」の作品として相応しいものと認める。
20年度審査員(敬称略・50音順)
折見保則・中村安弘・平野吉信・村重保則・松尾 彰